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少女の抱く「ナベ」の中には…

263: 名無しさん@お腹いっぱい。 2009/01/10 07:25:55

1/3

語りかける目

1月23日、私は2回目の出動をした。

任務は長田署管内の救助活動・遺体捜索。
そして、村野工業高校体育館における遺体管理と検視業務の補助であった。
仮の遺体安置所になった体育館は、たくさんの遺体と、それに付きそう遺族であふれていた。

そんな中で、一人の少女に、私の目はくぎづけになった。
その少女は、ひざの前に置いた、焼け焦げた「ナベ」にじっと見入っていた。
泣くでもなく、哀しむでもなく、身動きもせず、ただじっと見入っていた。

私は、その少女に引かれるように近寄っていった。
「ナベ」の中は、小さな遺骨が置かれていた。

「どうしたの。」

思わず問いかけた私の一言が、その少女を泣かせてしまった。
どっとあふれだした涙をぬぐおうともせず、懸命に私の目を見つめ、とぎれとぎれに語り続けた。
「ナベ」の中は、少女が拾い集めた母の遺骨であるという。


その夜(1月16日)も少女は母に抱かれるように、1階の居間で眠っていた。
何が起こったかも分からないまま、気がついたときには母とともに壊れた家の下敷きになって、 身動きもできない状態になっていた。
それでも、少女は少しずつ体をずらし、何時間もかけて脱出できた。
家の前に立って、何がなんだかわからないまま、どの家も倒れているのを見た。
多くの人が、何かを叫びながら走り回っているのを見た。

しばらくして、母が家の中に取り残されていることに気がついた。

「お母さんを助けて。」

「助けてお願い。」

と、走り回っている大人たちに片っ端からしがみつき、声を限りに叫び続けた。
だれにもその叫び声は聞こえなかった。声は届かなかった。
迫ってくる火事に、母を助けられるのは自分しかないと、哀しい決断を強いられた。







264: 名無しさん@お腹いっぱい。 2009/01/10 07:26:49

2/3


母を呼び続け、懸命に家具を押しのけ、がれきを放り投げ、一歩一歩母に近づいていった。
やっとの思いで、母の手を捜し当てた。姿は見えなかった。
母の手を見つけたとたん、その手を握り締めた。
そのとき、少女の手は血まみれになっていることに気がついた。

「おかあさん、おかあさん。」

「おかあさん。」

手を握り締め、泣きながら叫び続けるだけであった。

火事は間近に迫っていた。火事の音が聞こえ、熱くなってきた。
母は懸命に語りかけたが、かぼそい声で少女には聞こえなかった。

「おかあさん、おかあさん。」

と、叫び続ける少女に、名前を呼ぶ母の声がようやく聞こえた。


「ありがとう。もう逃げなさい。」


と、母は握っていた手を放した。

熱かった。怖かった。
夢中で逃げた。
すぐに、母を抱え込んだまま、わが家が燃え出した。
立ち尽くし、燃え盛るわが家をいつまでも見続けた。
声も出なかった。涙も出なかった。


265: 名無しさん@お腹いっぱい。 2009/01/10 07:27:35

3/3


翌日、何をしたか、どこにいたか、覚えていない。

翌々日、少女は一人で母を探し求めた。そして見つけだした。

少女は、いま一人で、見つけだした母を「ナベ」に入れ、守り続けている。


語り続ける少女の目から、いつのまにか涙が消えていた。
ただ聞くだけの私は、声も出ず涙があふれ続けた。
母と二人、この少女がどんな生活をしていたのか、私は知らない。
ひとりになったこの少女に、どんな生活が待っているのか、私にはわからない。

「この少女に神の加護がありますように。」
生まれて初めて「神」に祈った。
この少女に、なぐさめの言葉も、激励の言葉も何も言えなかった。
何度も何度もうなずくだけで、少女の前を逃げた。

少女は、最後まで私の目を見続け、語り、そして語り終えた。
その目は、もっと多くのことを私に語りかけ、今も語り続けている。

目は生きていた。

哀しいと思った。

美しいと思った。

強いと思った。

少女の名前を聞くのさえ忘れていた。


『明日に生きる 阪神・淡路大震災から学ぶ』
防災教育副読本(中学生用) 兵庫県教育委員会



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■コメント

タイトル見て、「まさかあの記事か?!」と思ったら、やっぱり当時読んだ新聞の記事だった。
この少女は、現在何をしているのだろう?元気にお母さんの分も生きてくれているといいな。
生きてるといいな

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